遮るもののない景色の中で
平成から令和へと歩みを進め
季節も静かに初夏へと向かい始めています
皇位継承に伴う厳かな儀式は
凛として胸を打ち
この国に生を授かったことに
あらためて深い感謝の想いを抱きながら
静かに拝見しておりました
中でも平成天皇が「退位礼当日賢所大前の儀」で
お召しになった
「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」
その美しさに心惹かれ
歴史や染色の過程を紐解てみると
重要な儀式で天皇だけが着用できる
古式装束の色「黄櫨染」という日本伝統の色だと知りました
「黄櫨染」は、ウルシ科の櫨(はぜ)で
黄色と熱帯地方原産の蘇芳(すおう)で赤を掛け合わせて
赤みのある落ちついた黄色を染めあげるものだそうです
自然のもの故に、その時どきで色は多少異なるようですが
この度の「黄櫨染」は
長きに渡って継承されてきたという背景も加味され
染色や織りに深い知識のない
私のようなものにも、重みのある尊い色ということが
伝わってまいりました
伝統を受け継ぐことと
植物や自然界との古くからの繋がり
その尊さと神聖さにあらためて深い感動を得た
元号の終わりと始まりでした
まだ肌寒さが残る4月
2年ぶりに大阪で開催された
今井和世さんの個展に足を運びました
八ヶ岳とデンマークを拠点に
植物を主とした水彩画・版画作家
その独特の捉え方や繊細な色使いに魅せられ
初めて個展に足を運んだのが
ちょうど2年前でした
その時はタイミングが合わず
お会いすることができなかったのですが
今回は在廊されていた今井さんと
運よくお話する機会に恵まれました
すらっと長身で小麦色に灼けた肌に
シンプルな黒い麻のワンピース
心にも身体にも余計なものを一切纏わない
潔さとやわらかな感性を併せ持つ方であることが
瞬時に感じてとれました
作品についてのお話
中でもアトリエのある
デンマーク・ボンホルム島の空と海の色の美しさ
自然に対する想いを語ってくださった言葉が
深く胸に残りました
「日本にいると
知らず知らずのうちに
見たくないものを見ないようにと意識して
暮らしていたのです
空を見上げれば電線が張り巡らされ
海にはテトラポット
夜の街には街灯や店の灯りがまぶしくて
星が瞬いていても気が付かない
けれども
デンマークには景色を遮るものが
ほとんどないのです
空には空
海には海の本来の色がそこにあって
草花や動物たちも
ありのままの姿で生きている
そんな風景のなかで
自分自身も少しずつ纏っているものを手放して
自然体でありのまま
取り繕うことなく生きる術を学び
また そう生きることを許せた気がします」
微笑みながら少しはにかみ
瞳を輝かせてそう語ってくださいました
『遮るもののない風景のなかで
取り繕う必要のない生き方を
自分自身に許すことができた』
それは自然本来の持つ美しい色彩や音色
草花たちや動物たちのありのままの姿が
教えてくれたこと
知らず知らずのうちに
見たくないものから眼をそらすため
自分自身の瞳や心までも
閉ざしてしまっている
都会に暮らす私たちはそんな風にいつの間にか
自分らしい感性や生き方を
忘れているのかもしれません
本来のありのままの感情を
素直に受け止めることすら
恐れて生きているのかもしれません
そんな頑なな心を解き放ってくれたのは
言葉をもたない自然の風景
素敵な言葉を受け取って
大切に掌に乗せては何度も眺めつつ
家路についた一日でした
遠く離れたデンマークの土地で
きっと今井さんは
今日も これからも
自然と一体になるような
素敵な生き方を重ねていかれることと
思います
季節はゆっくりと夏へと向かいます
変わるもの
変わらないものの狭間で
ひとつひとつの出会いのなかに
大切なものを授かれたなら幸いです
みなさんにとっても
新しい季節が美しい時間でありますよう
心から願っております
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